先刻「又聞き」と書いていて、ふと「孫引き」を連想しました。
まご‐びき【孫引き】 [名](スル)直接に原典から引くのではなく、 他の本に引用された文章をそのまま用いること。「論文の引例をそのまま―する(小学館『大字泉』)
学生の卒業論文を読んでいるとしばしば「孫引き」に出会います。
?こうした現象は、イヴァン・イリイチが言うところの「価値の制度化」(注23)である。
「ちゃんと勉強しているな」なんて感心しながら読んでいると、ガッカリさせられることがあるのです。
?注23)小原庄助「学校不要論」(○○図書『学校教育』2004年6月号所収)
なんていう脚注が付いていることがあるのです。
口述試験の時に、念のため聞いてみます。
?原典は確かめてみたの?
?いいえ、読んでいません。
孫引きしましたということを正直に書いているわけですから、こういうケースはまだ誠実さがある方だと思います。 引用したことすら明らかにせずに、あたかも自分が考えたことのように書いているケースも稀ではありません。
学生の卒論ならともかく、プロの「盗作」もあとを絶ちませんね。被害者になりやすいのが「素人」です。「プロ」 が書いたものは不特定多数の目に触れていますから、「盗作」の証拠が残ります。でも、「プロ」が「素人」のアイデアを盗んでいる場合は、 指摘されないことも多くあります。「モノを盗む」ことに比べると、「アイデア」を盗むことの方が罪悪感がないのかも知れませんね。 でもこれは等しく「盗み」なのです。「素人」からアイデアを盗む「プロ」はかなり悪質です。
こういう盗作に業を煮やした研究者が「あるイタズラ」を考えました。自分の論文にこう書いたのです。
?仁志田作二郎はこの現象を「反重力の例外」と説明している。
実在しない「仁志田作二郎」という研究者と「反重力の例外」という概念を創作したのです。
すると……。数ヶ月もしないうちに「仁志田作二郎はこの現象を『反重力の例外』と述べている」とか、 「この現象が仁志田作二郎の言う『反重力の例外』である」という記述のある論文が複数出てきたのです。こういう「イタズラ」、 やってみたいですね。(笑)
注記 仁志田作二郎云々という事例は、どこでいつ目にしたエピソードかわかりません。ディテールは適当に作りました。 こういう主旨のエピソードであることは間違いないのですが、「孫引き」すらできないほど記憶があいまいです。どなたか、 このエピソードの出典をご存じの方はおられないでしょうか?