この言葉が流行語となったのは10年ほど前のことでした。これまでの間に幾度となく企業倫理の欠如が問題となり、そのたびに経営陣からコンプライアンス重視の発言がなされたものです。
保険会社の保険金不払いや、リコール隠し、そして食品業界では乳製品製造業者、食肉業者、洋菓子製造業者などに引き続き、今度は和菓子製造の老舗A社による食品衛生法・JAS法違反の事件が起きました。
A社は名古屋から関西にかけて3つの向上を持ち、かなりの販売実績を持っています。創業300年という歴史は、その企業が顧客を裏切ることなく真摯に業務を続けてきた証ではないでしょうか。それが企業に対する信頼につながっていたはずです。A社は、他社のように売れ残りを販売スタッフに無償配布することをせず、個数をチェックした上で全て回収していたそうです。これはA社商品を扱っている売店の元販売スタッフから聞いた話です。僕は、「売れ残りを廃棄するのが老舗の誇りであるのだ」と信じて疑いませんでした。
しかし今般の報道によれば、A社は、廃棄処分とするために商品を回収していたのではなく、製造日の書き換えによる再商品化を目的としていたのですね。売れ残りはA社にとっては新品と価値の変わらぬ商品であり、商品の原材料にもなったと知り驚いています。
なぜA社はこうした違法行為を30数年にわたって続けてきたのでしょうか。それがわかりません。土産物としての知名度も人気もあったあの商品が赤字を作っていたとはどうしても思えないのです。おそらく多数の従業員はその事実を知っていたのでしょう。全商品の18%が製造日偽装の商品だったと言うことは、一部の担当者の不正行為では起こりえないことだからです。
優良企業が発展し大きな利益を上げるに至るのは、そこに利潤追求以外の理想があるからです。理想実現に真摯に取り組む中で生まれる利潤は、従業員の誇りとなり生き甲斐となるはずです。利潤追求以外の目的を失ったとき、企業の迷走が始まるのではないでしょうか。このたびはたまたまA社の違法行為が明らかになっただけで、この利潤追求至上主義の社会の中では他にたくさんの類似ケースがあると思われます。
300年も続いた老舗が30余年前から違法行為を行っていたという事件は、江戸時代より続いてきた古き良きものが、現代社会の風潮の中で崩壊していくさまを象徴していることのように思えてなりません。
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