炊飯土鍋の作り手の話です。あらかじめお断りしておきますが、これは流通畑の方からの又聞きでして、ウラは取っておりません。
某土鍋制作者に、「ネット通販で土鍋を買った」というHさんから電話がかかってきました。とにかくエラい剣幕で、 「使用上の注意に従って鍋を使い始めたら蓋が煤けて使い物にならなくなった。どう責任をとってくれるのか」というクレームです。 何十年と同じものを作り続けてきて、こんなことを言われるのは初めてだと、窯元の奥さんはひどく落ち込みました。
羽釜型の土鍋には木蓋がついています。Hさんは、鍋を長時間火にかけ続けたために、焦げた粥で木蓋を燻製にしてしまったのでした。 土鍋にかかわらず、鍋を長時間火にかけたら焦げるのは当然です。鍋の作り手に責任なんかありはしないのです。
米国で売られている傘には「これで空は飛べません」という使用上の注意が書いてあるという「ジョークのような本当の話」 がありますけれど、我が国でも「粥を長時間焦がすと木蓋が煤けますので絶対に焦がさないでください」と書かなければならないのでしょうか。
世間には「常識」というものがあります。法廷でも「社会通念」という概念が使われるくらいですので、ひとに「常識」 を求めるのは当然のことでしょう。「常識」を備えた人は、鍋の内容物を焦がしたら「自らの失敗」と受け止めますが、「常識」 を持ち合わせていなかったHさんは、「鍋の使用説明が不十分」とか「ガスレンジの使用説明が不十分」と受け止めたようです。
マニュアル化された社会の中では、「常識」もマニュアル化する必要があるのかも知れません。しばらく前でしたら、 あえて土鍋を使おうと思う人は、かなりこだわりを持った一部の人だったでしょう。粥で蓋の燻製を作るなんて「奇跡」 は起こりようがありません。仮に蓋の燻製ができてしまったら、それを恥じてひたすら隠したことでしょう。 ブームとなると事情は異なってきます。土鍋ユーザの裾野は限りなく広く、鍋でインスタントラーメンすら作ったことがない人でも、 「土鍋でご飯を炊いたら美味しく出来る」などという幻想を持ってしまいます。 雑誌やネットに踊らされて高価な土鍋をつい買ってしまったけれど、使いこなせなくてガッカリしている人も少なくないかも知れません。
はやりごとには必ず仕掛け人がいるハズだと勘ぐってしまうのは僕の性格によるものと思われます。(笑) 今年の土鍋ブームも、 しばらく以前に誰かが「企画」したことに違いないと睨んでいます。広告会社なのか出版会社なのか流通業者なのか……。案外、 思ってもみないところが発信源かも知れませんね。
ところで、ブームに踊らされた一人が僕の家にいます。(笑)
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